teresuwatebesu's blog

ときどき宇宙のことを考えるといいらしい

大阪旅行一日目(まだ着いてもいない編)

大阪一人旅に行ってきた。

安定の低空飛行。

その不吉な予感は出発日前日からはじまっていた。

 

たしかにおれにも非があろう。日頃の。

とはいえ、だ。なぜに前日になって互いに不愉快になるであろうことを言いだすのか。

思い出したくもない。

それによりすごくムカムカバクバクした気持ちで目を閉じなければいけなかった。

たいていそんな寝方をした翌日は体のあちこちが軋み、頭もどんよりと曇ってとても優れた気分になどなれようもない。

 

もう、いい。この話はここでもさんざしてきたと思うし、そのことをクローズアップすることは結局母の束縛にたいしてまだ断ち切れないなにかがあるということにもなると思うから、ぶつ切り。ここで終い。これでいい。相手にしない。

 

はい。

それでそんなくらーい気持ちではじまった旅なんですけどね。

あ、でも天候には珍しく恵まれました。これは見方次第ではけっこう好運だったんだろね。でもそうは思えないほどイライラさせられたからなあ。

 

はい。やめましょう。

 

で、のぞみに乗って、いざ出発。

はい、ここでひとつ簡単に不運だったことを書いておきますと、「うんこに行きたいなー。でもどうしようかなー」とお腹がぐずぐず、気持ちがぐずぐずしていたときに、岡山あたりだったろうか。ひとりの巨体のフォーマルな格好をした男性がC席に着席した。

自分は今回たまたま窓側の席だったわけであるが、ようするにその巨体男さんが道を塞ぐ格好になったわけである。

勘違いしないでいただきたいのが、べつにデブだから邪魔だとかデブだから汗臭いだとかデブがデブなのは総じて自制心がないからではないのかとかそんな心ないことを今回は思ったわけではない。

 

彼は着席するなり、ドデカい旅行カバンからおもむろにノートPCを取り出し、なにやら作業にとりかかりはじめた。

たしかにうんこに行くかもしれないこちらの身としては、そのように腰を据えられると、とっさの便意に対応できないではないか、という不安もある。

そして数分間の彼の挙動から、「融通の利かなそうなデブ」という判断を下していたおれは、すこし不安になったのもまた事実。

だが、このときばかりは別の不安が頭をもたげた。

 

なぜに、なぜに彼はマウスを使うのか。

ふつう、ノートPCというものはその特性上、指で操作できるマウスが付いているものである。

たしかにハードであるマウスを付けて操作することも可能であるし、それを付けたほうが操作性は向上するというのも頷ける。

 

だが、だが、公共の場で、ノートPCを広げて作業する人間で、マウスをくっつけて操作している人間というのは、はじめて見た。

 

カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……

 

マウスのクリックというやつは、一度気になりだすと気になるものであり、デブときている。やはりおれが最初に想起した印象はあながち間違いではなく、このデブのクリック、「デブクリック」にあと何時間付き合わされなければいけないのだろうかと思うと気が気でなく、不安は便意を煽り、便意は殺意を煽りで私はなぜこのような気持ちにならなければいけないのか。やはり昨日の母のひとことから始まった悪運はこの調子で続いていくのだろう、まったく前途多難な先が思いやられ暗鬱とした気持ちになりズブズブとその沼に沈んでいくような気持ちになりはじめていた。

 

いや、待て待て待て待て。彼には片付けなければいけない仕事の山があり、こんな移動の最中でさえ、休息も惜しまず、臭い汗水を垂らし、健気にはたらいているのではないか、と

もしかすると、己の知らない、指での操作はしづらいアプリケーションを使っており、致し方なく、肩身の狭い思いをしながら、それでも僅かばかりの給金を受け取るため、嫌な顔をされてもめげずに頑張っているのではないかと、まったくお角違いのクレーマーに対して、平謝りを繰り返すアルバイターのように、痛みをこらえてがんばっているのではないか。と、わずかに残された善意の、天使のおれがそう囁いていた。

 

チラッ

 

チラチラッ

 

おれはさりげない風を装い、彼のPCを何度か覗いてみた。

 

おかしい。

 

 

彼はあれだけクリックを繰り返しているというのに、

 

まだなにもアプリケーションが起動していない。

 

エクセルだとかワードだとかCADだとか、なにかそういった類のアプリケーションが、立ち上げられてもいないのである。

 

では、彼はなにをしているのかというと、

 

彼はフォルダを開いていた。

 

ただひたすらに

 

フォルダを開いていた。

 

 

 

どんだけルートの深いフォルダ開いとんねん

 

 

いっこうにその画面は変わる様子もなく、

いつまでもいつまでも、その耳障りなクリック音がわたしのお腹と悪魔を刺激していた。

 

新大阪での下車だった私は彼の前を通ることになった。

 

降り際、彼はたしかにテーブルを片した。

 

しかし、足元のドデカいカバンは置きっぱである。

 

これを跨げというのか。

 

その列は三人掛けで、ちょうどその前の前くらいから乗車してきていた人も真ん中に座っていたから、ただでさえ手狭なのである。

 

そして一番の問題は巨体の膝小僧である。

膝小僧+ドデカいカバン=

 

 

いや、立てやデブ

 

 

なんなのだ、

目を合わせようともしない。

 

ガリってんだから通れんだろ、とでもいわんばかりの態度である。

私はからだをくねらせくねらせ、大股にひらきひらきしてなんとか通路に出た。

 

「デブクリックを繰り返す融通の利かなそうな、いや、融通の利かない膝小僧デブ」に私は心底疲弊させられた。やはり、前途多難な旅である。