teresuwatebesu's blog

ときどき宇宙のことを考えるといいらしい

Kの告白

いままで誰にも話してこなかったある小さな罪についてお話しします。

なにもバレないようにひた隠しにしていたわけではありません。

自分でさえそれを良く思っていなかったため、記憶から追い出して

なかったことにしようとして、誰にも語られてこなかったというわけです。

 

僕にいまこうして友達がいないのも、ある意味必然なのかもしれません。

僕は僕を軽蔑します。

と同時に、受け入れてもいます。

でなきゃ死んじゃうからです。

自分の醜さとうまく付き合っていく方法は、見ないフリをすることですから。

 

それでは少しの間、僕の懺悔に付き合ってください。

 

 

 

 

 

 

あれは忘れもしない、小学二年生のときのこと。

 

そのころの僕は、クラス内人気者ランキングがあるとすれば

 

上位にランクインするほどの実力者でした。

 

というのも

 

当時の小学校低学年なんて

 

足が速けりゃ一目置かれ、女の子にもモテる→男からも尊敬

 

のような図式が成り立つ、いわゆる無理ゲーの対義語、ヌルゲーだったわけです。

 

歯抜けのクソガキでもちやほやされる年齢だったのです。

 

そんななか

 

クラスのなかで僕よりも足が速い

 

W辺くんというのがおりました。

 

いま振り返ってみれば

 

その事件が起こるずっと前から

 

僕は彼の存在を、疎ましく思っていたのかもしれません。

 

彼は僕と同じように一目置かれる存在であり

 

ひょっとすると、僕よりもVIP待遇されていたのかもしれません。

 

そんなある日

 

W辺くんと、クラスのマドンナN村ちゃん、その右腕A坂ちゃん、そして僕、(仮にKとしておきましょう)という組み合わせで

 

昼休みの校庭で遊んでいました。

 

なにをしていたのかまでは覚えていません。

 

鬼ごっこだったかもしれないし、

 

かくれんぼだったかもしれません。

 

ひょっとしたら、ポケモンGOだったかもしれません。

 

ただ校庭のどこらへんで遊んでいたのかだけは覚えていて

 

隅っこでした。

 

ええ、木の茂み。

 

広大な校庭の淵には防犯などのためか

 

たくさんの木が植わっており

 

その木のちょっとした抜け穴から向こう側にいくと、

 

ちょうどよい具合にフェンスと木の間に隙間ができており、

 

子供ひとりが通るには十分なスペースのある一本道が

 

校庭の外周に沿って、Cの字に広がっていました。

 

そこを出たり入ったり

 

「戯れ」、というのでしょうか

 

男女二人組は

 

じゃれながら、戯れて遊んでいました。

 

そうして一緒に遊んでいながらも

 

内心にはドス黒いものを抱えていた男が一人。

 

「右腕はおれのこと好いとるな」という寸評を下したのは他でもない、

 

若き日の少年、K。

 

Kは、彼女のすきすきオーラを読み取っていたわけです。

 

顔の造形はマドンナより整っていたと記憶しています。

 

好意的に思ってもらえることの有り難さは

 

いまでこそ、身に染みてよくわかりますが、

 

当時の歯抜けちんげなしクソガキだったころの僕は

 

人の好意の上に、あぐらをかいている状態でした。

 

いっぽうのマドンナはというと、

 

どちらかというと

 

W辺のほうに気があるようで

 

そのW辺に対する素振りや、ボディタッチの多さが、Kの目につくのでした。

 

加えて、風のうわさのことを思い出したKは、愕然とします。

 

「これは、あるかもしれない…。あのうわさのようなことが、あったかもしれない…」

 

Kの胸は掻き乱され、

 

卑猥な男女のやりとりに「けしからん!」という謎のおっさんのような声が、脳内にこだましているのでした。

 

昼休みは終了し、午後の授業は音楽室で行われることになっていました。

 

僕が通っていた学校は当時、新設されてまだ間もなかったので

 

いろんな教室、廊下、トイレに至るまで

 

ダンな建築方法が取り入れられていました。

 

音楽室もその例外ではなく、

 

一クラス40名ほどの生徒一人一人に、木製に見立てたオルガンが用意され、

 

それを室内に完備できるだけの広さがあり、

 

加えて大学の講義室のように、布地の床が壇上になっているようなつくりでした。

 

体育館の次にはしゃいでしまいそうなつくりは

 

やはり、遊び盛りの小学生男児の心をくすぐるようで、

 

猿山で走り回る猿よろしく、

 

活発に室内を走り回っているのでした。

 

ですが、根が真面目で、将来的にそこしかウリにできなくなるクソ真面目のKは、

 

そういった男子たちのバカ騒ぎに対しては

 

いつも冷ややかな視線をおくるのが常でした。

 

音楽の授業は終わり、あとは教室に戻って帰りの会をしたら「先生さようなら」の時間。

 

あとは帰るだけの楽勝モード。

 

「それにしても、だりー授業だったー」

 

そんなことは思ってなかったかもしれんが、

 

とりあえず、みんながぼちぼち教室に帰りはじめたころ

 

W辺くんともう一人の友人が、なにやら追いかけっこをはじめたようだ。

 

どうやらW辺くんが、消しゴムかなんかを盗んたようで、

 

それを、「返せよー、返せよー」と阿保ヅラで連呼する小童、

 

お互い遊び半分に、でもなんか追いかけっこをして、体を動かしているうちにハイになって半ば真剣に、

 

消しゴムをめぐって

 

本格的な追いかけっこが始まりました。

 

円を描くようにして走り回るW辺と小童。

 

その円の中にいる、おれという存在。

 

そこに悪魔は降臨しました。

 

たった数秒の間に、そろばんは弾かれ、何度も何度も反証され

 

アリバイと正当な理由と、もしものときの保険のことも考慮にいれながら

 

Kは自然と、一歩を、踏み出していた。

 

「いってえええええええええええええええええええええええ」

 

そう、僕はなんてことをしてしまったのだ。

 

いくら彼のやったことが正義に反しているとはいえ、

 

いくら彼のほうがマドンナに好かれているとはいえ、

 

いくらマドンナとちょめちょめしたことが気に食わない&嫉妬していたとはいえ、

 

暴力で解決しようというのは、

 

己の正義にも、世の中の道理にも反することではないか…!

 

いままで聞いたことのないような悲鳴に、音楽室にいた全員が振り返る。

 

おれは、おれは、取り返しのつかないことをしてしまった…。

 

「どうしたのっ!!Kくんっ!!!!」駆け寄ってくる先生。

 

(ああ…、どうしようこの状況…)

 

そんなことを頭の隅っこで考えながらも、一番の問題は、この足の痛み。

 

激痛。悶絶。

 

(なんや、あいつ、足かたすぎぃい、鋼鉄やんけええええええ)

 

途切れる意識の中

 

僕の頭は、周りのみんなに、自分が加害者として映らないように

 

振る舞うことだけを考えていた。

 

そう、まさに生存本能。

 

己が生き延びるために必要な本能。

 

人類の発展を支えた、素晴らしき本能。

 

自己保存という本能。

 

僕はかけつけた複数の先生の助けを借りながら

 

保健室へと運ばれていった。

 

 肩越しに窺ったW辺くんは、先生たちに囲まれてた。

 

 

 

その後の顛末は

 

僕が考えたシナリオ以上に

 

最高の結果で、

 

全面的にW辺くんに非があったことで決着した。

 

足をひっかけようとしたときに考えだした、

 

「僕がさりげなく歩き出した瞬間に、たまたま背後から来ていた(走り回ってはいけないはずの音楽室で走り回っていた)W辺くんの足を引っ掛けてしまい、転倒する結果となった」

 

という、当初は全面的に自分の正当性を証明するために仕組んだアリバイ

 

まさかこういうかたちで活きてくるとは。

 

翌日、席まで謝りに来たW辺くんの、なんともいえない表情が

 

頭にこびりついている。

 

ことはなく、順当に忘れている。

 

 

 

 

 

中学生になって、W辺くんはヤンキーになっていた。

 

一度帰り道で絡まれたことがあった。

 

だけど彼は、

 

いきがったヤンキーが総じて、自分より弱い人間に対して行う狩りと変わらないことを

 

僕に対しても、してきただけだった。

 

彼が知らないということは

 

おれしか知らないということだ。

 

 ぶるる。

 

 

 

追記:ようするにこれが、山田風太郎氏のいっていた法に問われない完全犯罪ってやつか